厳しく言えば萎縮し、優しくすれば甘える。褒めても響かず、放っておけば伸びない。部下や後輩との関わり方に正解が見えず、自分のマネジメントに自信が持てない。そんなモヤモヤを抱える人は少なくありません。
『もしアドラーが上司だったら』は、そんな「人を育てる悩み」に、アドラー心理学の視点からまっすぐ答えてくれる一冊です。理屈っぽい理論書ではなく、ダメ営業マンが上司の教えで変わっていく物語仕立て。読んでいるうちに、いつのまにか自分の職場のことを考えはじめている、そんな本です。この記事では、本書の核心と、明日から試せる関わり方のヒントを要約します。
『もしアドラーが上司だったら』はどんな本?
本書は、組織人事コンサルタントの小倉広さんによる著作で、2017年にプレジデント社から出版されました。心理学者アルフレッド・アドラーの思想を、職場のリーダーシップや人間関係に応用した「ビジネス自己啓発小説」です。
舞台は広告代理店。営業がうまくいかず毎日モヤモヤしている主人公のリョウのもとに、アメリカの大学院でアドラー心理学を修めた上司「ドラさん」がやってきます。チャーミングで部下思いのドラさんが、リョウに少しずつ「宿題」を出していく。その宿題をひとつずつこなすうちに、リョウの仕事への向き合い方が変わり、成果もついてくる。読者はリョウと一緒に課題を体験しながら、アドラー心理学の実践を学んでいく構成になっています。
同じアドラー心理学を扱った『嫌われる勇気』が「自分の生き方」をテーマにしていたのに対し、本書は「職場でどう人と関わるか」に焦点を当てています。理論よりも具体的な行動レベルに落とし込まれているのが、最大の特徴です。
こんな人におすすめ
- 部下や後輩の育て方に悩んでいるリーダー・管理職の人
- 叱っても褒めても効果を感じられず、関わり方に迷っている人
- アドラー心理学を仕事の現場でどう使うのか知りたい人
- 理論書は苦手だけれど、物語なら読み進められるという人
- 職場の人間関係に疲れ、もっと楽に働きたいと感じている人
核心1:人を動かすのは「勇気づけ」
本書を貫く中心概念が「勇気づけ」です。アドラー心理学でいう勇気とは、「私には能力がある」という感覚のこと。困難に立ち向かう活力の源です。勇気づけとは、相手のなかにあるこの感覚を育て、自分の力で前に進めるよう支えることを指します。
ドラさんがリョウに出す宿題のひとつが「できているところに注目し、できていないところには注目しない」というものです。私たちはつい、足りない点・直すべき点ばかりを見てしまいます。しかしダメ出しを重ねるほど、人は自信を失い、行動できなくなる。逆に、すでにできている小さな前進に光を当てると、人は「自分にもできる」と感じ、次の一歩を踏み出せるようになります。
もうひとつの実践が「リフレーミング」です。同じ出来事も、見る角度を変えれば意味が変わります。たとえば失注を「失敗」と捉えるか、「次に活きる経験」と捉えるかは自分で選べる。出来事そのものは変えられなくても、それにどんな意味を与えるかは選択できる。この自由が、人を萎縮から解放します。
核心2:「叱らない・褒めない」が育てる理由
アドラー心理学は、部下を「褒めて伸ばす」という一般的なマネジメント観にも一石を投じます。褒めることも叱ることも、どちらも「上の立場の人が下の人を評価する」という上下関係(縦の関係)の行為だ、と考えるからです。
褒められて動くようになると、人は「褒められること」自体が目的になりがちです。評価されないとやる気が出ない、上司の顔色をうかがって動く。これでは自発性は育ちません。叱責が相手を萎縮させ、行動を止めてしまうのも同じ構図です。
本書がすすめるのは、評価ではなく「感謝」や「共感」を伝えることです。「助かったよ、ありがとう」「その視点はなかった、参考になる」。相手を見下ろして点数をつけるのではなく、同じ目線で事実を認め、気持ちを伝える。この関わり方が、外からのご褒美に頼らない、内側からの意欲を育てていきます。
核心3:機能価値と存在価値を切り分ける
本書のなかでも、多くの読者の心に残るのが「機能価値」と「存在価値」の区別です。機能価値とは、成果や能力など「何ができるか」で測られる価値。存在価値とは、ただそこにいてくれること、生きていることそのものへの価値です。
仕事ができないと、人はつい「自分には価値がない」と感じてしまいます。しかしドラさんは、営業成績の悪さはあくまで機能価値の問題であって、リョウという人間の存在価値とはまったく別のものだと伝えます。成果が出ない時期があっても、あなたの存在そのものの価値は揺るがない。この切り分けは、落ち込んだ部下を支えるときにも、自分自身を励ますときにも効く、強力な考え方です。
仕事の成果は「できること」の価値にすぎず、その人がそこにいてくれること自体の価値とは別のものである。
『もしアドラーが上司だったら』の考え方より
核心4:課題の分離で、関わりが軽くなる
「課題の分離」は、アドラー心理学のなかでも特に実践的な考え方です。ある事柄について「その結末を最終的に引き受けるのは誰か」を問い、自分の課題と相手の課題を線引きします。
職場の例で言えば、上司が誠実にアドバイスをするのは自分の課題ですが、それを受け取って実際に行動するかどうかは部下の課題です。よかれと思って相手の課題にまで踏み込み、肩代わりしてやってしまうと、相手の自立する機会を奪い、自分も疲弊します。本書では、相手を喜ばせようと行動したあと、その反応が思ったものでなくても、相手がどう受け取るかは相手の課題だと割り切る、という考え方も示されます。
ただし、課題の分離は「相手を突き放して放置すること」ではありません。求められたら手を貸せる距離で見守り、自分にできることに集中する。線を引くからこそ、相手を信じて任せられるのです。
核心5:幸福の土台となる「共同体感覚」
勇気と並ぶ本書のもうひとつの柱が「共同体感覚」です。これは、まわりの人を競争相手ではなく仲間だと感じ、「自分はこの場所に居場所があり、誰かの役に立っている」という感覚を指します。アドラー心理学では、この感覚こそが幸福の土台だと考えます。
ドラさんがリョウに出す宿題に「毎日、誰かを喜ばせる」というものがあります。同僚に小さな手助けをする、感謝を言葉にする。相手の役に立てたという実感(貢献感)が、めぐりめぐって自分の勇気にもつながっていく。職場を「評価され、勝ち負けを競う場」から「仲間と支え合う場」へと捉え直すと、働くこと自体が少し楽になります。
さらに本書は、判断に迷ったときは「目の前の小さな共同体」よりも「より大きな共同体」の利益を優先する、という視点も示します。自分の部署や目先の都合だけでなく、会社や社会全体にとって何が良いかという広い視野を持つこと。それが長い目で見て、信頼される働き方につながっていきます。
正直なところ、向き不向きもある
本書は読みやすく実践的ですが、注意したい点もあります。物語仕立てゆえに、現実の複雑な人間関係がやや理想的に描かれている面は否めません。ドラさんのように理解ある上司ばかりではないですし、相手によっては勇気づけがすぐに効果を生まないこともあります。
また、アドラー心理学を体系的に深く学びたい人には、入門書としては物足りなく感じるかもしれません。本書の価値は、難解な理論を「明日の職場で試せる行動」に翻訳してくれる点にあります。理論の深掘りは他書に譲り、まず一歩を踏み出すきっかけとして読むのが、いちばん本書を活かせる読み方だと思います。
読んで得られること
読後にまず変わるのは、人を見る視線です。「できていないところ」ではなく「できているところ」に目が向くようになると、部下や同僚への声かけが自然と変わります。叱る・褒めるという縦の関わりから、感謝と共感を伝える横の関わりへ。そして、成果が出ない相手にも、その人の存在価値は別だと切り分けて接することができる。
同時に、自分自身も楽になります。課題の分離で「これは相手の課題だ」と手放せるようになり、共同体感覚で「役に立てている」という小さな満足が日々の支えになる。劇的にチームが変わるわけではありませんが、毎日の関わりが少しずつ穏やかで前向きなものに変わっていきます。
まとめ
『もしアドラーが上司だったら』は、アドラー心理学を「職場で人と関わるための実践哲学」として届けてくれる一冊です。勇気づけ・叱らない褒めない・機能価値と存在価値の分離・課題の分離・共同体感覚。これらの柱は、部下を持つ人だけでなく、人間関係に悩むすべての人のヒントになります。要約で関心を持った方は、ぜひリョウとドラさんの物語そのものを読んでみてください。宿題をひとつずつ追体験する読書は、要約では味わえない本書ならではの魅力です。
よくある質問
- Q『もしアドラーが上司だったら』は管理職でなくても役に立ちますか?
- A
はい。主人公のリョウは部下を持つ立場ではなく、悩める若手社員です。勇気づけや課題の分離、共同体感覚といった考え方は、後輩との関わりや同僚・上司との関係、さらには自分自身を励ますうえでも役立ちます。立場を問わず使える内容です。
- Q『嫌われる勇気』と『もしアドラーが上司だったら』の違いは?
- A
どちらもアドラー心理学を扱いますが、切り口が異なります。『嫌われる勇気』は哲人と青年の対話で「自分の生き方」を問う内容、本書は物語仕立てで「職場での人との関わり方」に焦点を当てています。仕事の現場で具体的に実践したい人には本書が向いています。
- Q心理学の知識がなくても読めますか?
- A
はい。広告代理店を舞台にした物語形式で、専門用語も登場人物の会話を通してかみくだいて説明されます。心理学を学んだことがない人でも、リョウの成長を追いながら無理なく読み進められます。

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