「どうして自分は人付き合いが下手なんだろう」「過去のあの出来事さえなければ」。そんなふうに、自分を責めたり過去を悔やんだりしてしまう日があります。アドラー心理学は、そうした悩みに対して「過去ではなく、これからをどう生きるか」という視点を差し出してくれます。
その入り口として読みやすいのが、『アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために』(岸見一郎 著)です。この記事では、本書が伝えるアドラー心理学の基本的な考え方を、要点ごとに整理してわかりやすく要約します。難しい予備知識は必要ありません。
『アドラー心理学入門』はどんな本?(基本情報)
本書は、哲学者でありアドラー心理学の研究者として知られる岸見一郎さんによる解説書で、KKベストセラーズの「ベスト新書」から刊行されています。のちにベストセラーとなった『嫌われる勇気』の著者の一人でもある岸見さんが、その土台となるアドラー心理学の考え方を、新書一冊にコンパクトにまとめた一冊です。
20世紀初頭に活躍した心理学者アルフレッド・アドラーは、フロイトやユングと並ぶ存在として語られます。本書は、その思想を「よりよい人間関係を築く」という実生活のテーマに引きつけて読み解いていきます。対話形式ではなく、概念を順を追って説明していく解説スタイルなので、アドラー心理学の全体像を地図のように見渡したい人に向いています。
こんな人におすすめ
- アドラー心理学に興味があり、まず基礎から知りたい人
- 職場や家庭など、人間関係のストレスを軽くしたい人
- 劣等感や自信のなさと、うまく付き合っていきたい人
- 『嫌われる勇気』を読み、その背景にある考え方をもう少し体系的に学びたい人
要点1:原因ではなく「目的」から考える
アドラー心理学の根っこにあるのが、人の行動を「原因」ではなく「目的」から理解しようとする見方です。「過去にこんなことがあったから今こうなった」と原因をさかのぼるのではなく、「人は何らかの目的に向かって、いまの感情や行動を選んでいる」と捉えます。
この考え方が示すのは、過去の出来事そのものに人生を決められているわけではない、という希望です。同じ経験をしても、それにどんな意味を与え、これからどう動くかは自分で選べる。本書は、過去を変えることはできなくても、その受けとめ方とこれからの行動は変えられる、という前向きな視点を伝えます。
要点2:劣等感は悪ではなく、成長のバネになる
「劣等感」は、アドラー心理学を語るうえで欠かせないキーワードです。本書では、劣等感は誰もが抱く自然な感情であり、それ自体が悪いものではない、と説明されます。理想とする自分と現実の自分とのあいだにギャップを感じるからこそ、人は「もっとよくなりたい」と努力できる。劣等感は、扱い方しだいで成長の原動力になりうるのです。
一方で本書は、「劣等感」と「劣等コンプレックス」を区別します。劣等コンプレックスとは、劣等感を成長のきっかけにするのではなく、「自分はダメだから」と課題から逃げる言い訳に使ってしまう状態を指します。同じ劣等感でも、努力に向かえば力になり、言い訳に使えば足かせになる。その分かれ道を意識することが大切だと教えてくれます。
要点3:性格は「ライフスタイル」として選び直せる
アドラー心理学では、その人なりのものの見方・考え方・行動の傾向を「ライフスタイル」と呼びます。一般に言う「性格」に近い言葉ですが、生まれつき固定されたものではなく、その人が人生のなかで身につけ、いまも選び続けているものだと考える点に特徴があります。
つまり、自分のライフスタイルは、変えようと決意すれば変えていける、ということです。「自分はこういう人間だから」と決めつけて立ち止まるのではなく、これからの生き方は自分で選び直せる。本書は、変化のハードルは決して低くないと認めつつ、そこに変わるための余地があることを示します。
要点4:すべての悩みは「対人関係」から生まれる
本書の副題が「よりよい人間関係のために」であるとおり、アドラー心理学は対人関係を中心に据えます。アドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と考えました。劣等感も、孤独も、嫉妬も、他者という存在があってはじめて生まれる感情だからです。
だからこそ、対人関係をどう築くかが、生きづらさを和らげる鍵になります。本書は、相手を打ち負かすべき競争相手とみなすのではなく、ともに生きる仲間として捉え直す視点をすすめます。他者を「敵」ではなく「仲間」と見られるようになると、人と接するときの構えが少しずつ変わっていきます。
要点5:幸福の鍵は「共同体感覚」と「勇気づけ」
アドラー心理学が目指す方向を示す言葉が「共同体感覚」です。これは、自分が家族・職場・社会といった共同体の一員であり、そこに居場所があると感じられること、そして他者の役に立てていると実感できることを指します。人は、誰かとつながり、貢献しているという感覚のなかで幸福を見いだす、という考え方です。
その共同体感覚を育てる関わり方として、本書は「勇気づけ」を重視します。勇気づけとは、相手が困難に立ち向かう力を取り戻せるよう支えることです。アドラー心理学は、上から評価する「褒める・叱る」よりも、対等な立場で関わることを大切にします。相手の存在やプロセスに目を向け、感謝や共感を伝えていく。そうした日々の積み重ねが、自分と周囲の双方を支えていきます。
正直な評価:入門書としての位置づけ
本書の魅力は、アドラー心理学の主要な概念を新書一冊で一通り見渡せる、見取り図としての分かりやすさにあります。劣等感、ライフスタイル、対人関係、共同体感覚、勇気づけといった柱を、専門用語に頼りすぎずに説明してくれるので、最初の一冊として手に取りやすい構成です。
一方で、入門書ゆえに、一つひとつのテーマを深く掘り下げるというより、全体を要点で押さえていく性格が強い本でもあります。物語のように引き込まれる読み心地を求めるなら対話形式の『嫌われる勇気』のほうが入りやすいかもしれませんし、より深く学びたくなったら専門書へ進む、という流れが自然です。また、アドラー心理学の考え方すべてが万人にそのまま当てはまるわけではありません。深刻な心の傷など専門的なケアが必要な問題は、医師や公認心理師など専門家に相談することが大切です。本書は、日々の人間関係を少し軽くするための「考え方の地図」として読むときに、最もよく生きると思います。
まとめ
『アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために』は、アドラー心理学の基礎をやさしく見渡せる入門書です。原因ではなく目的から考える視点、劣等感との向き合い方、選び直せるライフスタイル、そして共同体感覚と勇気づけ。これらの考え方は、人間関係に悩む多くの人にとってヒントになります。アドラー心理学に興味を持った最初の一歩として、手に取ってみる価値のある一冊です。
よくある質問
- Q『アドラー心理学入門』は心理学初心者でも読めますか?
- A
はい。新書一冊でアドラー心理学の主要な概念をやさしく解説しており、専門用語も丁寧に説明されています。予備知識がなくても、最初の一冊として読み進められます。
- Q『嫌われる勇気』とはどう違いますか?
- A
『嫌われる勇気』が哲人と青年の対話形式で読ませるのに対し、本書は概念を順を追って説明する解説スタイルです。アドラー心理学の全体像を地図のように整理して把握したい人に向いています。
- Q読むとどんなことに役立ちますか?
- A
劣等感との向き合い方や、自分と他者の関わり方を見直すヒントが得られます。対人関係のストレスを少し軽くしたい人や、これからの生き方を前向きに考えたい人に役立つ考え方が詰まっています。
さらに深く学びたい方へ(関連書籍)
本書を読んでアドラー心理学に興味が深まった方は、こちらの一冊もあわせてどうぞ。

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