「この子のために、何をしてあげられるだろう」。子育てをしていると、喜びと同じくらい、迷いや不安が押し寄せてきます。叱り方ひとつ、声のかけ方ひとつで、本当にこの子は伸びていくのだろうか。そんなふうに立ち止まる夜もあるかもしれません。
そんなときに、そっと背中を支えてくれるのが、20世紀を代表する心理学者アルフレッド・アドラーの考え方です。アドラー心理学は、子どもを「変えよう」とするのではなく、子どもが本来もっている力を信じ、引き出していくことを大切にします。それは、子どもの「生きる力」を育てる土台そのものです。
この記事では、アドラー心理学の考え方をもとに、家庭や学校で今日から実践できる15のヒントを、具体例とあわせて紹介します。すべてを完璧にこなす必要はありません。「これならできそう」と思えるものから、一つずつ試してみてください。
- 1. 子どもに「ここにいていい」という安心感を与える
- 2. すべての悩みは「人間関係」から考える
- 3. 子どもを変えようとせず、まず親が変わる
- 4. 支配ではなく「対等な関係」を築く
- 5. 子どもの「個性」を尊重して伸ばす
- 6. 子どもが見ている「世界」を理解する
- 7. 「今、ここ」を生きる力を信じる
- 8. 共感しながら、子どもの話を聴く
- 9. 「劣等感」を成長のエネルギーに変える
- 10. 「失敗していい」と伝え、挑戦する心を育てる
- 11. 「共同体感覚」を育てる
- 12. 「課題の分離」で過干渉を手放す
- 13. 「夢」や「目標」を一緒に描く
- 14. 原因さがしより、未来の目的に目を向ける
- 15. 「ありがとう」で貢献感を育てる
- まとめ:完璧な親より、信じて待てる親に
- よくある質問
1. 子どもに「ここにいていい」という安心感を与える
安心できる居場所が、子どもの「勇気」を育てる
子どもが何かに挑戦したり、困難に立ち向かったりするためには、まず「自分はここにいていいんだ」という安心感が欠かせません。アドラー心理学では、この安心できる居場所の感覚を土台に、人は前へ進む勇気を持てると考えます。逆に居場所が揺らいでいると、子どもは失敗を過度に恐れ、新しい一歩を踏み出しにくくなります。
家庭でできること
- 子どもの話を途中でさえぎらず、最後まで聞く
- 「あなたがいてくれて嬉しい」という気持ちを、言葉と態度で伝える
- 失敗しても「大丈夫だよ」とまず受け止める
- 兄弟やよその家庭と比べず、その子自身の昨日と今日を比べる
学校でできること
- 一人ひとりの発言を、丁寧に受け止める
- 結果だけでなく「いつも頑張っているね」と過程の努力を認める
- クラス全員で協力する活動を通して、一体感を育てる
2. すべての悩みは「人間関係」から考える
良好な人間関係が、子どもの心を育てる
アドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と考えました。これは子どもにとっても同じです。勉強がつらい、学校に行きたくないといった悩みの奥には、友達や先生、家族との関係がひそんでいることが少なくありません。だからこそ、子どもが安心して関われる人間関係を整えることが、心の成長を支えます。
家庭でできること
- 日々の出来事や感じたことを、親子で率直に話し合う
- 兄弟げんかは、それぞれの言い分を聞いてから一緒に解決策を考える
- 料理やゲームなど、家族で一緒に楽しめる時間をつくる
学校でできること
- 友達とのトラブルでは、双方の意見を聞いて仲介する
- グループ活動を通して、協力する大切さを体験させる
- いじめには毅然とした態度で対応する
3. 子どもを変えようとせず、まず親が変わる
親が変われば、子どもも変わる
子どもを自分の思いどおりに「変えよう」としていないでしょうか。アドラー心理学では、相手をコントロールしようとするより、まず自分の関わり方を見直すことを大切にします。命令や叱責で動かそうとするほど、子どもは反発しがちです。親の言葉や態度が変わると、不思議と子どもの反応も少しずつ変わっていきます。
具体例
- 言うことを聞かないとき、頭ごなしに叱る前に「なぜ聞けないのか」を考え、自分の伝え方を見直す
- 「○○しなさい」と命令する代わりに「○○してくれると助かるな」と自分の気持ちを伝える
- 子どもに求めることを、まず親自身がやって見せる
4. 支配ではなく「対等な関係」を築く
対等な関係が、子どもの自立心を育てる
アドラー心理学では、他者に支配されることも、他者を支配することも、健全な態度ではないと考えます。子どもを親の所有物のように扱えば、子どもは自分で考える力を失っていきます。年齢に応じて、一人の人間として尊重する。その姿勢が、子どもの「自分で決める力」を育てます。
具体例
- 子どもの意見を、頭ごなしに否定せず一度受け止める
- 「○○しなさい」ではなく「○○してみたらどうかな」と提案する
- 子どもが自分で決めたことは、できる限り応援する
5. 子どもの「個性」を尊重して伸ばす
ライフスタイルは、その子の生き方そのもの
アドラー心理学では、その人らしい考え方や行動のパターンを「ライフスタイル(生活様式)」と呼びます。これはその子の生き方そのものであり、無理に矯正するものではありません。おとなしい子、活発な子、慎重な子。どんな性格にも、その子だけの強みが隠れています。短所に見える部分も、見方を変えれば長所になります。
具体例
- どんな性格も、その子の個性として認める(慎重さは「丁寧さ」、活発さは「行動力」と捉え直す)
- 得意なことを伸ばし、自信の土台をつくる
- 子どもの興味や関心に沿って、習い事や活動を選ぶ
6. 子どもが見ている「世界」を理解する
人はそれぞれ、主観的な世界を生きている
アドラー心理学では、人は客観的な事実そのものではなく、その人なりの意味づけを通して世界を見ていると考えます。子どもには、大人とは違う世界が見えています。大人には理解しがたい行動も、子どもの側から見れば筋が通っていることが多いのです。「なぜそんなことを」と責める前に、「その子の目に何が映っているか」を想像してみましょう。
具体例
- 理解できない行動には「なぜそんなことを」ではなく「どうしてそうしたの」と理由をたずねる
- 子どもの目線まで姿勢を下げて、物事を見てみる
- 子どもの話を、評価せずに最後まで聞く
7. 「今、ここ」を生きる力を信じる
人生を決めるのは、今を生きる子ども自身
アドラー心理学は、人は過去や環境に縛られず、自分の人生を自分で選び取れると考えます。子どもは無限の可能性を秘めた存在です。「どうせ無理」と決めつけるのは、たいてい大人のほうです。親が可能性を信じる言葉をかけ続けることが、子どもが未来を切り開く原動力になります。
具体例
- 「あなたなら、きっとできるよ」と可能性を言葉にする
- 子どもが自分で決めたことを応援する
- 失敗しても「次はきっとうまくいくよ」と励ます
8. 共感しながら、子どもの話を聴く
傾聴が、子どもの心を解きほぐす
相手の話に共感しながら耳を傾けること。これは、良い人間関係をつくる最初の一歩です。子どもは「自分の話をちゃんと聞いてもらえている」と感じると、安心して心を開きます。アドバイスや解決を急ぐより、まずは気持ちに寄り添うこと。それだけで、子どもは「わかってもらえた」と感じられます。
具体例
- 子どもが話しているときは、手を止めて目を見て聞く
- 「そうなんだね」「それは大変だったね」と気持ちに寄り添う言葉を返す
- 話を否定したり、さえぎったりしない
9. 「劣等感」を成長のエネルギーに変える
劣等感は誰もが持つもの。問題はその使い方
アドラー心理学では、劣等感は誰もが持つ自然な感情だと考えます。大切なのは、それをどう扱うかです。劣等感は「自分はダメだ」と落ち込む材料にもなれば、「もっとできるようになりたい」という成長のエネルギーにもなります。子どもが自分を責めているときこそ、別の視点を差し出してあげましょう。
具体例
- 「あの子はできるのに」と落ち込む子に「あなたにはあなたの得意がある」と別の視点を与える
- 「苦手なことにも一緒に挑戦してみよう」と寄り添う
- 他人とではなく、過去の本人と比べて「前よりできるようになったね」と成長を認める
10. 「失敗していい」と伝え、挑戦する心を育てる
不完全だからこそ、人は成長できる
人は完璧ではないからこそ、成長しようとします。失敗を過度に責められて育った子どもは、失敗を恐れて挑戦を避けるようになります。「失敗してもやり直せる」という安心感があってこそ、子どもは新しいことに踏み出せます。失敗を成長の一部として受け止める環境をつくりましょう。
具体例
- 失敗しても「大丈夫、次があるよ」と励ます
- 結果より、挑戦したこと自体を認める
- 親自身が、失敗を恐れず新しいことに挑む姿を見せる
11. 「共同体感覚」を育てる
人とのつながりと貢献感が、幸せな人生をつくる
アドラー心理学の中心にあるのが「共同体感覚(Gemeinschaftsgefühl)」という考え方です。これは、他者への関心や信頼、そして「自分は誰かの役に立っている」という貢献感のことです。アドラーは、この感覚を育てることが幸せな人生への道だと考えました。自分のことだけでなく、まわりの人を思いやれる子どもは、人間関係の中で生きる力を身につけていきます。
具体例
- 困っている人がいたら、手を差し伸べるよう促す
- 「ありがとう」「ごめんなさい」をきちんと伝える習慣をつくる
- 家族の一員として、家事などの役割を任せる
12. 「課題の分離」で過干渉を手放す
これは誰の課題か、を見きわめる
アドラー心理学を語るうえで欠かせないのが「課題の分離」です。これは「この問題は、最終的に誰が責任を負うのか」を考え、自分の課題と他者の課題を切り分ける考え方です。子どもの課題にまで親が踏み込みすぎると、子どもは自分で考え、責任を持つ機会を失います。見守ることと、放っておくことは違います。助けを求められたら手を貸す、その距離感が大切です。
具体例
- 宿題は子どもの課題。親が全部やるのではなく、助けを求められたときに支える
- 友達とのけんかにすぐ介入せず、子ども自身が解決できるよう話を聞く
- 進路や将来は、一緒に考えても最終的には子ども自身が決められるようにする
13. 「夢」や「目標」を一緒に描く
人は目的に向かって生きる存在
アドラー心理学では、人の行動は「過去の原因」よりも「これからの目的」に向かっていると考えます(目的論)。子どもが「こうなりたい」という目標を持つと、毎日の行動に意味が生まれ、生きる力が湧いてきます。大人から見れば小さな夢でも、頭から否定せず、一緒にふくらませてあげましょう。
具体例
- 子どもの「やりたいこと」を、否定せずに応援する
- 「将来どんなことをしてみたい?」と未来について一緒に語る
- 目標までの小さなステップを、一緒に考える
14. 原因さがしより、未来の目的に目を向ける
未来志向が、子どもの可能性を広げる
「なぜ失敗したのか」と過去を責めるばかりでは、子どもは前を向けません。アドラー心理学の目的論に立てば、大切なのは「これからどうしたいか」です。過去は変えられませんが、これからの行動は選び直せます。原因さがしを一区切りつけて、未来に向けた問いに切り替えてあげましょう。
具体例
- 失敗を引きずる子に「次はどうしたらうまくいくかな」と未来へ問いを向ける
- 過去の失敗を蒸し返さず、これからの行動に注目する
- 親自身が、過去にとらわれず前向きに進む姿を見せる
15. 「ありがとう」で貢献感を育てる
「役に立てた」という実感が、自己価値を育てる
アドラー心理学では、人は「自分は誰かの役に立っている」という貢献感を通して、自分の価値を実感すると考えます。子どもにとって、親や周囲からの「ありがとう」は、何よりの栄養です。ほめ言葉で操作するのではなく、感謝を率直に伝えること。それが、ゆるぎない自己肯定感の土台になります。
具体例
- 家事を手伝ってくれたら「ありがとう、助かったよ」と感謝を伝える
- 誰かを助けたら「優しいね」とその行動を具体的に認める
- 「あなたがいてくれて嬉しい」と、存在そのものを肯定する
まとめ:完璧な親より、信じて待てる親に
アドラー心理学が教えてくれるのは、子どもを思いどおりに動かす技術ではありません。子どもを一人の人間として信じ、その力を引き出していく姿勢です。15のヒントは、つきつめれば次の4つに集約されます。
- 安心できる居場所をつくり、自己肯定感を育てる
- 課題を分離し、子どもの自立心を尊重する
- 共同体感覚を育て、社会性を養う
- 未来を信じ、挑戦する勇気を後押しする
すべてを一度に実践する必要はありません。今日からできる小さな一歩を、一つだけ選んでみてください。完璧な親を目指すより、子どもの力を信じて待てる親へ。その積み重ねが、子どもの「生きる力」を確かに育てていきます。
よくある質問
- Qアドラー心理学の子育ては「甘やかし」とどう違うのですか?
- A
大きく違います。甘やかしは、子どもの課題まで親が肩代わりしてしまうこと。一方アドラー心理学が大切にするのは、子ども自身が課題に取り組めるよう見守り、必要なときだけ支える姿勢です。子どもを尊重することと、何でも言いなりになることは別物です。
- Q「ほめる」のと「勇気づける」のは何が違うのですか?
- A
ほめるは「上から評価する」関わりで、相手を操作する側面があります。勇気づけは「対等な立場で力づける」関わりです。結果だけをほめるのではなく、過程や努力に注目し「頑張っていたね」「助かったよ」と伝えると、子どもは外からの評価に頼らず、自分で前へ進む力を育てられます。
- Q忙しくて全部は実践できません。どれから始めればいいですか?
- A
まずは「子どもの話を最後まで聴く」ことと「ありがとうを伝える」ことの2つから始めるのがおすすめです。どちらも特別な時間や準備が要らず、今日から取り入れられます。小さな積み重ねが、子どもの安心感と自己肯定感を少しずつ育てていきます。

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